第579号 つれづれに思いつくまま(3) ===数学でスタートを考える話?===


第579号
つれづれに思いつくまま(3)
===数学でスタートを考える話?===
2016年9月6日
AAC会員
鎌苅 滝生氏

久し振りに東京に行き、汐留の日本テレビの近くにあるスペイン料理店で息子と食事
をした。翌日、帰りの新幹線で読む本を探すため東京駅構内の本屋に立ち寄った際、
タイトルに魅かれて1冊の文庫本を購入した。

西成活裕東大教授著「とんでもなく役に立つ数学」という本である。数学嫌い・数学
アレルギーの人はまず手にしない本であろうが、私は小さい頃から数学(算数)が好
きで、得意な科目であった。本の目次を見ると後半に「問題解決①ペースの定量化3
万人が並ぶ、東京マラソンのスタート地点」という項目があり、これに興味を抱きレジ
に向かった。

西成教授の専門は数理物理学で「渋滞学」で有名な方である。お盆や年末年始に高
速道路でみられる自然渋滞(事故や工事によるものではない渋滞)の発生のメカニ
ズムを解明し、その解消方法を導き出した。その答はしごくシンプルで、すべての車が
一定の車間距離を保つことにより渋滞が起きないことを数学的に証明したものである
が、実際に社会実験も行われテレビでも放映されたことがあるので、ご存知の方もお
られるかもしれない。

さて、東京駅からの出発と同時に買った本を読み始めたが、予想通り面白く楽しい内
容で240ページを新大阪駅に着くまでに一気に読み終えた。その内容の一部を以下
に紹介しようと思う。

西成教授は、身近な渋滞を考える例として、東京マラソンで「スタートラインを3万人が
横切るとき、どうすれば全員をより早く、スムーズにスタートさせられるか?」をテーマ
として取り上げている。教授は、人の歩く速度と人口密度の関係から説明し、密度が
上がると、すなわち詰まり過ぎると流れが悪くなることを明らかにしている。

実際に、ある会場から隣の会場へ1000人で移動するという実験をしたが、最初は何
も言わずに移動してもらったところ、全員が移動し終えるまで25分かかったのに対し
て、次に「1秒後に目の前の人の足跡を踏むように動いてください」と言ったところ流
れが急に良くなり移動時間が16分に縮まったことが紹介されている。

つまり、適度に間隔(1秒間隔)をあけることによりスムーズな流れになるのである。
これを前提として、スタート地点では一定の間隔をあけてスタートすれば、3万人の最
後尾のランナーがスタート地点を超えるまで何分かかるかを、『微分』を使って解を導
いている。ここではその計算過程を紹介できないが、結論は20分以上かかっている
現状から、8分になるというものである。

この解は、いくつかの仮定条件の下に微分を使って最小値(極値)を出したものであ
る。もちろん実際にやってみると8分になる訳ではない。東京マラソンでは、世界のト
ップのエリートランナーをはじめとし、制限時間ぎりぎりの初心者まで様々で、年齢層
も幅広く、伴走者と一緒に走る障害のある人もいる。仮定する条件ですべてのランナ
ーが動けることがないのは当然である。

教授ご自身も、仮想の計算なのでそんなに甘いものではないが、コストがかからない
改善策なので、何かに役立つ可能性があると述べている。多くのマラソン大会で、ス
タート間際になるとブロックの仕切りロープが外され、すべてのランナーが間隔を詰め
て前に移動する光景を見かける、また主催者も「できるだけ間隔をあけずに、前に詰
めてください」という声もよく耳にするが、これが実は逆効果で、スタート地点での渋
滞を激しくさせていて、ロスタイムを増大させているのであった。

西成教授は、この本の中であるテレビ局から東京マラソンの参加者の手荷物受け渡
し窓口の混雑の問題で、調査依頼があったことも記載している。当時の手荷物受付
は、人々が来る方向に対して平行に配置してある「平行窓口」であったとのこと。この
ケースでは平行窓口の短所を述べられており、著書では明記はされてはいないが、
文意から判断すると、人が来る方向に対して垂直に配置してある「対面窓口」を提起
されたようである。

著者は、「東京マラソン」だけでなく、大勢の集まるイベントやコンサート、駅などでは
数万人が集まることは日常的によくあることだが、安全性の観点からも、流れの効率
化の観点からも、ストレスの観点からも、人同士は密集しないほうがいいのです。」と
結論つけているが、納得である。

紹介したこの本は高校生に特別講義をした内容をもとに上梓されたものであるが、図
や数式が何ヶ所か出てくるが、決して難しい数学の本ではない。東京マラソンの話以
外に、「人間関係のトラブルが解ける? ゲームの理論」や「コピーマシンをつくる方法」
など楽しい内容が豊富である。数学はどうもという方は、数式は無視して読み物として
充分楽しめる本だと思いますので、興味のある方はご一読をお勧めします。
参考:「とんでもなく役に立つ数学」(241ページ) 角川文庫 760円
著者 西成活裕東京大学教授

追記:今年の神戸マラソンはウェーブスタートが採用されることになっている。 但し、
2組のウェーブで大きな混雑緩和は期待できないかもしれない。また、つくばマ
ラソンは昨年に引き続きウェーブスタートとなるが、詳細は未だ明らかになって
いない。しかしながら、両大会とも公式タイムはグロスタイムで、残念ながらネ
ットタイムは依然参考記録のままである。

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