
第458号
トランスジャパンアルプスレース参戦記!
2014年8月21日
AAC会員
千原 昇氏
この夏、トランスジャパンアルプスレース(TJAR)に参加しました。TJARとは、日本海
を出発し、北アルプス、中央アルプス、南アルプスを越え、太平洋まで(距離415Km、
総合標高差27000m)を自身の足のみで8日間以内に踏破するレースです。
その間の宿泊は、自分で担いだテント、ツェルト(簡易テント)によるビバーク(緊急露
営)のみが許され、トレランというより登山の要素が大きくなります。
このレースの存在は数年前から知っていたのですが、私はマラソンやトライアスロン
が中心で山岳の経験はほとんどなく、地図読みなど出来ないし、ましてやツェルトを背
負ってビバークしながら進むなど、自分には不可能で無縁だと思っていました。
その考えが変わったのは3年前、アドベンチャーレーサーの田中正人さんが講師とし
て来られた芦屋の地図読み講習会に参加してからでした。こういう練習をつめば、あ
のTJARに出られるのではないかと思い始めました。それをきっかけに、六甲山に地
図を持ち込んだり、オリエンテーリングに参加しながら地図読み練習を積んできました。
さらに、山岳専門の方々とコンタクトを取り、山の技術を身につけるようにしてきました。
やりだして段々気が付いてきたのですが、一朝一夕では身につかない技術が非常に
多いため、トライアスロンは一時中断で山岳練習に取り組んできました。
加えて、TJARは出たいと思えば誰でも出られるレースではなく、6月に実施された選
考会で勝ち残り、30人の出場枠に入らなくてはなりませんでした。選考会にはトレイル
ランの世界で強豪の方々が数々参加され、走力は私が明らかに劣っていましたが、
それまで練習してきた地図読みやビバーク練習が功を奏してどうにか勝ち残り、念願
の30人枠に入ることができました。ゼッケンは年齢の若い順から1番、2番…と降られ
るのですが、私は高齢の部に入るので、ゼッケン27番をいただきました。
【レース初日】
レース前の開会式、予想外にも非常に盛大に行われ、出場選手一人一人が紹介され
ました。http://www.tjar.jp/2014/info/2014/08/12051950.html
これで気合が入り、8/10に0時に富山湾をスタートしました。しかしながら、台風の影
響で天候は常に悪く、レースは難航を極めました。
開始早々から台風の影響でコース変更があり、最初の難関である剱岳を回避する代
わりに、大きく西側から回り込んで40kmロードを走った後、立山から入るルートに変更
されました。このコース変更により、工程はいくらか楽になりましたが、予定していたコ
ースタイムからは大きく遅れることになりました。
また、今回の作戦として、食事は主に山小屋でご飯ものをしっかり食べ、間を携行食
で繋ごうと考えていましたが、これは大きく当てが外れました。山小屋が空いている時
間は6時~18時くらいなのですが、その時間にうまく山小屋には着かず、朝方あるい
は夜についてしまうことが多く、山小屋でまともなものが食べられたのは初日のラーメ
ンと二日目のカレーのみになってしまいました。これが、後々の疲労に繋がったものと
思います。
初日のコースに話を戻すと、40kmロード、そして富山鉄道の立山駅を超えるとトレイル
となり、しばらくはまずまずのペースで進んでいました。このあたりまでは楽しい気分に
もなっていたのですが、一の瀬山荘を超えて鬼岳、獅子岳に入ると、これまで経験し
たことのない強風が吹き荒れ、気を抜いたら谷底に吹き飛ばされそうで、気をつけな
がら徐々に進みました。このために、五色ヶ原山荘に着くのが18時少し前と、予定よ
りかなり遅れました。天気も非常に悪く、ここでビバークして翌日早くに出発するのも
一つの手でしたが、私は、当初の予定通りスゴ乗越キャンプ場に行くことを決めました。
そこまで行けば、翌日以降の展開が楽になると踏んだからです。しかし、これも作戦ミ
スだったかも知れません。悪天候でなかなか進めず、スゴ乗越に着いたのが23時過
ぎと極めて遅い時間で、大きく疲労してしまいました。
【2日目】
このためか、2日目は全く調子が上がらず、後続の選手に抜かれるばかりでした。
携行食は常に口にしていましたが、やはりしっかりしたものを食べたい。しかし、前述
の通り、この日のまともな食事は昼前に薬師寺山荘でカレーを食べられたのみでした。
黒部五郎岳から黒部五郎小屋に至る下りでは、日も暮れていたこと、雨で足場が悪く
なっていたことに加え、次第に足の踏ん張りが効かなくなり、何度もこける状態になり
ました。後で鏡を見て気が付いたのですが、この時に顔中は傷だらけ、あざだらけに
なっていたようです。しかし、アドレナリンでも出ていたのでしょうか、さほど痛みは感
じておらず、その時は自分ではそこまでの怪我を負っているとは気が付いていません
でした。
【3日目】
黒部五郎小屋から三俣蓮華岳に登る最中、明らかに自分は遅く、次の関門の上高地
までは間に合わないと判断し、リタイヤを決意しました。朝5時頃だったと思います。
しかし、自己完結、自己解決が基本のTJARでは、このリタイヤはタイミングが少し遅か
ったようです。前日の黒部五郎小屋の段階でリタイヤを決めるべきだったのかも知れ
ません。というのも、リタイヤを事務局に報告しようとしても電話が通じず、とりあえず
食事を取ろうと向かった次の山小屋(三俣山荘)に着くまでに体が冷え切ってしまった
ようで、到着したその場で低体温症と診断されてしまいました。この件は、公式HPでも
私について「低体温症で避難」と記され、私のことを公式HPでずっと追って頂いた方々
には大変な御心配をおかけしてしまったものと思います。
【TJARを終えて】
結果として、北アルプスも越えることができなかった上に、まさかの低体温症の診断ま
でついてしまいました。反省点はいくつもありますが、AAC会員の皆様にも参考になれ
ばと思う点を2点あげさせていただきます。
①山では決して無理をしてはいけない。これは勿論、自分でも初めから気をつけて
いたことですが、特に山やトレランでは自分が限界と感じるそのだいぶ手前の段
階で止めなければならないと思いました。
②普段からトライアスロンやマラソンに取り組んでいると、自分でも気づかず自然に
限界まで追い込めてしまうように思います。私も今回は、自分でも気づかないま
ま追い込んでしまっていました。救護体制がしっかりしているマラソンやトライアス
ロンのレースではそのまま行ってしまってよい場合でも、山やトレランではそこま
で追い込んではいけないですね。
以上、反省点ばかりになってしまいましたが、憧れのTJARに出場できたのは一生の
宝です。この経験を糧に、今後のアスリート人生をより価値あるものにしていきます。
最後になりましたが、今回は本当に皆様から沢山の応援をいただき、どうもありがとう
ございました。
(大会参加日:2014・8・10~12)